6年前の夏のこと.

私はアメリカ出張から帰国し,出社すると,

「悪いんだけど,再来週くらいにスウェーデンにいってくれない?」

と突然の出張命令. 仕事の内容は,当時私が主導で開発していた(現在は製品化されている)プロジェクトを顧客にデモしたいので,そのときに私に開発者としてサポートして欲しいとのことだった. 自分が作ったものをサポートするのは大好きなので,正直ちょっと疲れていたが,承諾した. 国際会議の経費処理とスウェーデン出張の起票を同時にやるという書類仕事にまみれながら,出張の準備を行った. また,さすがに1日デモして帰国はもったいないので,その時の開発プロジェクトに関連する仕事をしているイギリスの事務所にもいくことになった. 日本→スウェーデン→イギリス→日本という旅程である. 今更ながら,このハードスケジュール旅程がすべてのトラブルの源だったのである.

飛行機の空席状況などもあり,スウェーデンのヨーテボリ2泊,ヨーテボリ3日目の朝にイギリスのバーミンガムの事務所に行き,その後,バーミンガムからロンドンで2泊して帰国というスケジュールに収まった. 正直,あんまり詰めるとスケジュールがきつくなる. しかし,現地のスタッフに色々迷惑をかけたくないし(現地オフィスで仕事するとかすると面倒),疲れるので,長旅にはしたくないという葛藤がある. このスケジュールで結局,ロンドンからの帰国日の前日が自由時間になったので,私としてはそこそこうれしいスケジュールとなった.

飛んでヨーテボリ

ヨーテボリという都市はスウェーデン第二の都市である. 日本からのヨーテボリ行きの直行便はないため,フランクフルト空港からの乗り継ぎとなる. ヨーテボリは日本人にとってそんなに有名な都市ではないが,私は学生時代にICMCという国際会議の発表でここのヨーテボリ大学を訪れており,6年ぶりに同都市を訪問することになったのだった. 何か縁のようなものを感じてうれしかったことを覚えている.

ヨーテボリでは,現地事務所を訪れ,日本から送られた機材をセットアップし,デモの準備に備える. 到着日にセットアップ,到着日の翌日にデモ対応,翌々日の朝の7時発の飛行機でイギリスに発つというちょっとハードなスケジュールだ. デモは往々にして本番で動作しない. その憂き目に遭わないためにも前日から本番当日も何度もテストを行った. また,イギリスの現地オフィスで現地スタッフ向けに研究開発のプレゼンを行う予定だったので,テストの合間にプレゼンの調整と発表練習をして時間を潰した. まさに模範的なサラリーマンである.

私は,今回は技術的な質問,およびトラブル時の対応のために出張したため,「僕は説明しなくていいんですよね?お願いしますよ?」と現地入りしてから10回くらい確認したのだが,お客さんが来たとき,「はい,それでは吉田さんお願いします」と背中から撃たれたときは固まった. まぁ,しかし,そんなこともあろうかと,一応前日から英語で説明できるように練習しておいて正解であった.

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デモは成功,そして出発.

お客さんは「今の開発中のモデルにこのデモの技術は当然含まれてるんだよね?」と冗談を言ってくれたので,割りとウケはよかったようだ. その後,飲み会があり,私は22時頃まで飲み,ホテルに戻り,次の日の出発に備える. 朝7時発のフライトなので,5時くらいに起きて,予約したタクシーをぶっ飛ばして,空港まで行き,すぐに飛行機に乗り込まなければならない. しかも,その日は2tchのバージョン1がAppStoreに初めて並んだ日でもあった. 色々なイベントが立て込むなか,スウェーデンを出発する時刻が近づく. そう事件はまさに起きようとしていた.

搭乗

ヨーテボリの空港は朝から盛況だった. 日本だと想像がつかないが,EUは都市間のフライトが活発で,小型飛行機が異国の都市間をばんばん飛び回っている. 朝6時台だというのに,ヨーテボリ空港は発券に30分もかかる大盛況であった. 間に合うかちょっと焦るくらいの込み具合だったので,チェックインの後のカフェでコーヒーとパンを食べれられたときは非常にほっとしたことを覚えている. そして,運命のフライトの時間が迫る. 私は,普通に飛行機に乗り込み,シートに座り込む. 飛行機は,ちょっと定時から遅れて離陸し,一路イギリスはバーミンガムへ向かう. 私は,出張の疲れと早朝からの移動による睡眠不足でで飛行機の中で眠りについていた.

入国

飛行機が空港に着陸した衝撃で目を覚ます. 私は荷物手に持ち,飛行機を降りた. イギリスは入国管理が厳しいことで有名だ. 実際,私が入国審査を受けたゲートでは,アラブ系の人やアジア系の人が多く足止めをくらって疲れはてていた. 審査官はどこにいくのか,何の仕事なのか,会社名はなんだ,そんな会社知らない,などとごちゃごちゃ言ってたが,とりあえず入国させてくれた. 現地では,バゲッジクレームを出たところで現地オフィスの方が迎えに来てくれる約束となっていた. しかし,待てど暮せど,私のスーツケースが出てこない・・・・・.

「もしや,これがロストバゲッジ・・・・!!!!」

私は勘弁してくださいよ,眠いのに・・・・とフライトチケットを係員に見せて,オレの荷物がない,どうなってんだよ.と話かけた. すると,係員はぶっきらぼうに,

「ここはマンチェスターだぞ,お前,どこに向かってるんだ?」

と返す.

「は?オレはバーミンガム行きの飛行機にのったんだ.何言ってんだ?」

と私が返す.

「Here is Manchester.」

すると,係員は再度こう返答した.

その場を離れた私は,「ははーーーーん,バーミンガムとマンチェスターは100km以上離れてるはずなのに・・・間違ってたか・・・確かにイギリスの小都市の位置関係なんか詳しく覚えてないしなー,バーミンガム空港とマンチェスター空港は同じ空港なのかーー?はっはーーー」と思いながら地図を開く.やはりバーミンガムとマンチェスターは100km以上離れている・・・・. しかし,私はどうやら,いや確実にマンチェスターにいるようだ・・・・. なぜなら,そう,バゲッジクレームの前にいるはずの現地の人の姿も見えない・・・・・.

「Here is Manchester.」

その言葉が反響する中,私の背中が冷たくなっていくの感じた.

続く

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